三重の法務労務コンサルタント

仕事(人事労務、海外人事、税務、法務など)で学んだことや、趣味(歴史や旅行など)で感じたことなどを記載します

長寿企業に学ぶ、経営で大切なこと

 今、「長寿企業」が注目されている。なぜ、今、長寿企業なのだろうか。

 考えられる理由の一つは、厳しい経済環境の中、企業の継続が年々難しくなっていることである。企業の倒産件数は、1990年を底に増加しており現在も高水準にある。こうした中、どうすれば企業を長く継続できるのだろうか、といったことに関心が集まっているのである。

 もう一つは、米国型の経営手法への疑問である。1980年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれ、わが国経済は絶頂期にあった。ところがその後、バブル経済が崩壊、企業倒産が多発、銀行は不良債権に苦しみ、経営者の多くは自信を失った。

 1990年代以降、米国型の経営手法がわが国に紹介され、瞬く間に普及した。株主価値最大化が経営の目標に置かれ、成果主義人事制度、ストックオプション執行役員制度などが相次いで導入され、短期リターンが求められた。ところが、リーマンショックが起こり、米国を代表する企業の経営危機が相次いで発生、高額の役員報酬や短期的視点の経営にも批判が起こった。信奉してきた米国型経営手法は本当によかったのだろうか、こうした疑問が経営者の頭をよぎり、忘れかけていた日本的経営をもう一度見直してみようという機運につながっているのである。

 わが国は、人間の寿命において世界一の長寿国であるが、企業の寿命においても世界一の長寿国である。各国の「創業200年以上の企業」の数を比較すると、わが国は3,113社で第1位、第2位はドイツで1,563社、第3位はフランスで331社、第4位は英国で315社と続く。わが国の創業100年以上の長寿企業数はおよそ5万社で、わが国は世界一の長寿企業大国である。

 では、なぜ、わが国には長寿企業が多いのであろうか。その理由の一つは、伝統的な「家」制度の存在である。わが国の企業の多くは「家業」から始まり発展してきた。家業で重要なのは「家」の存続。通常は子供が家を継ぐのが一般的であるが、子供がいない場合でも、養子を迎えて「家」を存続させ、事業を続けてきた。養子縁組をして「家」に入って「家業」を継ぐというのは、世界的に見ても珍しい制度である。

 理由の二つ目は、「伝統の承継と革新」に取り組んだことである。この「伝統の承継」すなわち「変わらないもの」と、「革新」すなわち「変わるもの」とを、絶妙なバランスでとってきたのが長寿の秘訣である。

 「変化させていない伝統」として、「顧客第一主義」、「本業重視の経営・堅実経営」、「品質本位」、「従業員重視」、「企業理念の維持」などがあげられる。ここで注意すべきは、守るべき「伝統」の中に、売上拡大とか、利益重視とかの「カネ」に関するものが入っていないことである。

 他方、「変わるもの=革新」として、「商品・サービスに関する顧客ニーズへの対応」、「販売チャンネルを時代に合わせて変更」、「本業の縮減を前提とした新規事業の確立」などがあげられる。

 わが国の企業は、長寿企業の経営から何を学べばよいのであろうか。

 学ぶべきは、次の3点であると考える。

① 経営理念を再認識し、遵守し、全社をあげて実現を目指す。

② 長期的視点に立った経営を行う。

③ 従業員を大切にする。

 ①の経営理念であるが、長寿企業にあっては、代々の経営者が経営理念を在任期間の間に従業員に徹底し、遵守し、その実現に努めている。

 経営理念には、企業の使命や進むべき方向、社員が守るべき事が示されており、その企業の「憲法」とも言える大事なものである。経営判断に迷うときには、判断の拠りどころにもなる。もし、経営理念が時代に合わないのであれば、見直してもよい。ただし、経営理念を作り直すなら、社員の合意で作り直すべきであり、新しく作った経営理念を全社をあげて実現するように努めなければならない。

 ②で重要なのは、人材の確保・育成、研究開発、投資戦略である。例えば、人材。長期的視点に立った経営で人材の重要性を否定する人はいないであろうが、現実には、企業の採用戦略を見ると、本当に長期的視点に立っているのだろうかと首を傾げることがある。

 本来、人材の採用は業況の良し悪しに関わらず、長期的な視点に立って行われるべきものであるが、現実には短期的な業況判断に基づいて行われている。そして、何年か後には人員構成の是正が課題となったりする。

 ③の従業員を大切にする。「企業は人なり」といわれるが、商品開発をするのも、モノを作るのも、販売戦略を考えるのも、そして営業するのも、すべて人、つまり従業員である。今後も厳しい時代が続くであろうが、「できる従業員」を一人でも多く抱えることこそが競争力の源泉である。そのためには、従業員の確保、育成に最大限の努力を払う必要がある。

 そこで重要なのは、モチベーションの問題である。「人は育てるものではなく、育つもの」という言葉がある。いくら育成プログラムを組んでも、本人が「やる気」を持って参加し、積極的に吸収しようとしなければ、効果は薄い。この「やる気」のことをモチベーションというが、企業が従業員のモチベーションを高めるための取り組みを行い、従業員がそれに応えてやる気を出すためには、企業と従業員との間に「信頼関係」があることが大前提である。

 従業員を大切にし、従業員との間で信頼関係を構築し、その信頼関係をベースにモチベーション施策や育成策を行うことによって社員が育つのである。

 どんな企業も、聞けば「従業員を大切にしている」と答えるかも知れないが、長寿企業においては、正真正銘、従業員を大切にする経営が行われているのである。

 

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