三重の法務労務コンサルタント

仕事(人事労務、海外人事、税務、法務など)で学んだことや、趣味(歴史や旅行など)で感じたことなどを記載します

成果主義人事制度とモチベーション理論

一.成果主義人事制度

 20年ほど前から、「年功制から成果主義」というスローガンのもとに成果主義人事制度を導入する会社が増えています。

 「厳しい経営環境のもとで、もはや年功的な人事制度は維持できない。年功的な処遇では能力や意欲のある社員はやる気が起こらず、組織も活性化しない。成果と関係のない年功で賃金を決めるということは不公平である。」というような、誰でも納得できそうな明快な説明をしています。

 しかし、このように年功制をやめようという議論は、すでに60年以上も前からありました。

 日経連は、1955年に企業は賃金制度として職務給を導入すべきであるとして、次のように提唱しました。

 「賃金の本質は労働の対価たるところにあり、同一職務・同一労働であれば、担当者の学歴、年令等の如何に拘らず同一の給与額が支払われるべきであり、同一労働、同一賃金の原則によって貫かれるべきものである。これに反し職務と関係のない担当者の身分や学歴や、年令等によって給与を定めたり、ましてや職務と無関係に担当者の生活費を基準とするような賃金制度は労働の対価たる賃金の本質に反するものであり、公平な刺戟に欠けるので働く者に働きがいのある賃金とはいえない。」

 しかし、日経連のこのような呼びかけにもかかわらず職務給の導入はほとんどの企業で進みませんでした。

 日経連は、1960年代になると職務給の導入をあきらめ、代わりに能力主義の人事制度を導入すべきであるとして次のように提唱しました。

 「従来の年功・学歴を主な基準とする人事労務管理から可能な限り客観的に適性・能力を把握し、それにもとづく採用・配置・教育訓練・異動・昇進・賃金処遇・その他の人事労務管理への移行が大事である。」

 職務給導入の提唱のときとは異なり、能力主義人事制度の提唱は企業に受け入れられて、ほとんどの大企業に職能資格制度として導入されました。この時点で年功制は終焉するはずでしたが、いまだに年功制が続いています。なぜこのような状況になったのかといえば、制度の理念として年功制を否定する能力主義人事制度が、実際には年功的に運用されてきたからです。その最大の原因としては、処遇や能力開発・育成の基準としての明確な職能資格基準を設定することができなかったため、昇格基準が曖昧(抽象的)になったことが挙げられます。日経連も企業も、制度の理念と実際の運用とは別物であるということを理解していなかったからです。

 これは、成果主義人事制度にも同様にいえることで、年功的に運用される可能性があるということになります。

 ところで年功制や年功賃金とは何かということですが、簡単にいえば次のようなものです。「社員は最初仕事について何の知識や技能・技術も持たずに会社に入ってくる。最初は年も若く低い給与であるが、上司や先輩の指導のもとに年功を積むに従って漸次知識や技能・技術を習得し、序列が上がり、後任者の指導も行うようになっていき、能力も高く評価されるようになって給与も上がっていく。」賃金体系は全体としては生計費の増大に応じて賃金は上がっていくという生活費保証体系で、個別には人事査定で個人差をつけるという体系になります。

 

二.モチベーション理論

 成果主義人事制度には社員の働くモチベーション(動機付け)として、賃金のみを重視しすぎているのではないかという問題があるように思います。確かに賃金は生活を支えるものであり、社員の最も関心のある事項です。しかし、賃金は社員にとって働くモチベーションの重要ではあるが一つの要素にすぎません。社員が懸命に働く理由は賃金の他にも色々あります。賃金以外の動機を無視して人事制度を考えても、社員の動機付けには成功しないでしょう。

 「人が何によって動機付けられ、やる気が高まるのか」を研究した理論のことをモチベーション理論といいます。モチベーション理論はすでに60年前から広く研究が行われており、有名なものとして次の3つの理論があります。当然のことですが、働くモチベーションが賃金のみであるというような理論は存在しません。

○ マズローの欲求5段階説

 マズローは、人間の欲求は階層構造を形成しており、下位のものが充足されるごとにより上位の欲求を満たそうとするようになるとしています。その欲求とは低次のものから順に以下のように構成されています。

 ① 生理的欲求:食欲、睡眠等の根源的な欲求(適切な労働時間管理、必要な賃金の支給等)

 ② 安全の欲求:危機回避、健康維持等の自分の身を守る欲求(安全な職場環境、福利厚生の充実等)

 ③ 社会的欲求:集団への帰属や友情、愛情を求める欲求(職場運営に参画、小集団活動等)

 ④ 自我の欲求:自分が集団から価値ある存在と認められ、尊敬されることを求める欲求(人事評価制度、昇進・昇格制度、表彰制度等)

 ⑤ 自己実現の欲求:自分の能力、可能性を発揮し、創造的活動や自己の成長を追及する欲求(やりたい仕事を担当、成長の機会付与、チャレンジな目標の達成等)

 これらは低次のものから順に満たされると次の欲求を感じるようになり、また、いったん満たされた欲求はもうその人を動機付けるものにはならない。しかし、最高次の自己実現欲求だけは、それが満たされても動機付けの効果がなくなることはなく、満たされるほど一層強い動機付けになるとされています。

  • マグレガーのX理論・Y理論

【 X理論 】

* 人間観 : 人は生理的欲求、安全欲求により動機付けられる。

① 人は仕事が嫌い、できれば仕事をしたくないと考えている。

② 強制や命令、処罰などの脅迫がなければ、組織目標達成のための努力はしない。

③ 人は命令には従いやすく、責任は回避したがる。

* 管理法 : 統制による管理(アメとムチ)

* 動機付け方法 : 高賃金、作業環境の整備、福利厚生の充実

【 Y理論 】

* 人間観 : 人は元来、より高い次元の充足をめざしている。

  ① 人は仕事が嫌いではない。

  ② 自分が設定した目標のためには、自ら進んで努力をする。

  ③ 目標が達成されることで自己実現欲求が満たされると、人は自然に努力をするものである。

  ④ 条件によるが、人は進んで責任をとろうとする。

  ⑤ 多くの人は問題解決のために創意工夫する能力をもっている。

* 管理法 : 目標設定による管理

* 動機付け方法 : 組織の目標と個人の目標を統合し、個人が自主的に参加をするよう促進する。参画的経営と目標管理

 マグレガーはY理論に依拠する管理の重要性を主張しています。

○ ハーズバーグの動機付け・衛生理論

 「人間は、不快回避の欲求をどんなに充足しても不満足感が減少するだけで決して積極的満足感が増大することにはならないこと、また、自己実現欲求が充足されれば積極的満足感が増大するが、それが充足できなくても積極的満足感が減少するだけで、不満足感が増大するわけではない。」

 ハーズバーグは社員の仕事に対する意識や意欲に関係する要因を、満足を感じる要因と不満足を解消する要因とに分類しました。満足感をもたらす要因としては、達成、評価、仕事そのもの、責任、昇進などがあげられました。これらは仕事を通して自己実現を可能にする性格を含む、真に人間を動機付ける要因となるため「動機付け要因」と呼びました。また、不満足をもたらす要因として、会社のポリシー、管理技術、給与、対人関係、作業条件などがあげられました。これらは真に人間を動機付ける要因にはなりませんが、職場に発生する不快な状況や不満足を解消する要因となるため「衛生要因」と呼んでいるのです。

 ハーズバーグは、賃金を動機付け要因ではなく衛生要因であると位置づけました。この理論によれば、賃金の額を上げることは社員の不満足感を減少することにはなるが、社員を動機付けることにはつながらないと考えられます。

 

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 2年前に撮影した大川の河川敷

 

 

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