三重の法務労務コンサルタント

仕事(人事労務、海外人事、税務、法務など)で学んだことや、趣味(歴史や旅行など)で感じたことなどを記載します

社会保障協定について

 日本の会社から海外の会社へ派遣されて働く場合、日本の年金制度と海外の年金制度に二重に加入して保険料を支払わなければならないことがあります。

 また、日本の年金制度も海外の年金制度も受給資格要件としての最低の加入期間を満たすことができなければ、年金を受け取ることができず、保険料が掛け捨てとなってしまうことがあります。例えば、年金が受給できる最低加入期間は日本は10年、アメリカは10年、ドイツは5年ですので、日本で8年、アメリカで8年、ドイツで4年加入していた場合には、どちらの国からも年金をもらえなくなります。

 これらの問題を解決するために、日本と各国は以下の2つを主な内容とした社会保障協定を締結しています。

(1)適用調整

 相手国への派遣の期間が5年を超えない見込みの場合には、当該期間中は相手国の年金制度には加入せず自国の年金制度にのみ加入し、5年を超える見込みの場合には、自国の年金制度には加入せず相手国の年金制度にのみ加入する。

(2)保険期間の通算

 両国間の年金制度への加入期間を通算して、年金を受給するために最低必要とされる期間以上であれば、それぞれの国の制度への加入期間に応じた年金が、それぞれの国の制度から受けられるようにする。

 厚生労働省などは、社会保障協定を結ぶことで海外勤務に伴う年金制度の問題を解決できるようにいっていますが、海外勤務者の立場から見れば次のような問題があると思います。

1)日本のほとんどの会社が、海外に派遣した社員の社会保険料を会社が負担して海外の年金制度に加入していたが、協定締結後は5年以内の予定で海外に派遣される社員は海外の年金制度に加入できなくなる。

2)5年を超える予定で海外に派遣される社員は、協定締結後は派遣されている期間、海外の年金制度のみに加入することになり、年金水準の高い先進国に派遣される場合はよいが、年金水準の低いアジアの発展途上国などに派遣されると、将来の年金額が低くなってしまう。また、扶養していた配偶者も国民年金の第3号被保険者としての資格を失うことになる。

3)厚生年金と健康保険はセットになっているので、5年を超える予定で海外に派遣される社員は、協定締結後は、国内に扶養家族が残っている場合でも健康保険の資格を失うことになる。

 

 2022年5月現在、日本は次の23ヶ国と社会保障協定を結んでいます。

 ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、

 チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルグ

フィリッピンスロバキア、中国、フィンランド、イタリア

 (イギリス、韓国、イタリア、中国は適用調整のみで、保険期間の通算はありません)

 社会保障協定の締結されていない国の年金を受給する場合は、自分で直接相手国に年金請求の手続きをしなければならないので、一般的に手続きが煩雑になりますが、社会保障協定が締結されている国の年金を受給する場合は、日本の年金と同様に住所地の年金事務所で請求手続きを行うと、日本年金機構を経由して相手国の機関へ送付されます。

 

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