三重の法務労務コンサルタント

仕事(人事労務、海外人事、税務、法務など)で学んだことや、趣味(歴史や旅行など)で感じたことなどを記載します

職場のセクハラをなくすために

1.職場のセクシュアルハラスメントが起こる背景、要因

 職場のセクシュアルハラスメントが起こる背景や要因については、性別役割分担意識や男女間にある異性に対する認識のギャップ、主に男性が「当たり前だ」と思い込んできた意識が女性にとっては「当たり前ではない」というギャップが大きな要因であり、それは、これまでのわが国の歴史の中で社会的に作られてきた側面が強いことが指摘されています。

 真にセクシュアルハラスメントの問題を解決させていくためには、わが国の社会生活に関わるすべての人々が、そのような背景、要因を正しく理解し、十分に認識することが必要です。

(1) 固定的な女性観~性別役割分担意識

 わが国では、まだ「男は仕事、女は家庭」といった男女間の固定的な役割分担意識や「男は度胸、女は愛嬌」といわれるような性的固定観念が根強く残っています。

また、女性を固有の能力・適性などで評価するのではなく、女性は男性より劣った性であり、男性が、男性は女性より優れているという優越意識・上下意識で見てしまう社会的風土があります。

 このような意識は、職場において、男性が女性を働く上での対等なパートナーとして見ない、「女性の仕事に対する意欲や能力は男性よりも劣っている」「重要な仕事は男性が担当するもの」「女性の業務は補助的・定型的なもの」という考え方につながっています。

 また、職場の中で、「男性の上司が女性の部下にタバコの買い物など個人的な用事を頼む」「お茶汲みは女性の仕事である」「女性は仕事を遂行する能力よりも周囲に対する気配りが大切である」「若い女性がいると職場の中が明るくなる」など、女性に対し、業務の遂行よりも「女としての役割(「女らしさ」や「気配り」など)」を期待することなどもこうした意識の現われといえるでしょう。

 これらから、わが国では、まだまだ、女性をひとりの人間として尊重するという人権意識が低いのではないでしょうか。

(2) 職場への性的関心の持込み

 職場とは、決められた目標や方法に従って業務を遂行する公的な場所ですが、わが国では、職場の中に女性を「性的な関心の対象としてみる」という私的な意識が持ち込まれ、公私の区別が曖昧であるような状況が往々にしてあります。

 「女性の体にさわる」「性的な冗談を持ち出して相手の反応を楽しむ」「性的関係を求める」、といった言動は、女性を「性的な関心の対象としてみる」ことから起こっているものですが、プライベートにおいても、相手の意に反してこのような言動を行うことが許されないにもかかわらず、業務の遂行を目的とした職場にこのような言動が持ち込まれ、セクシュアルハラスメントが引き起こされていると言えます。

(3) 男女間にある性に対する認識のギャップ

a 男女間にある認識ギャップ

 性に関する言動の受け止め方には、女性と男性では大きな差があります。

 例えば、「スタイルがよい」「足がきれい」「色っぽい」などと、男性からすれば、「ほめている」「親しさのつもりで言った(性的な)ジョーク」であったとしても、相手の女性にとっては、「ほめられて嬉しい」どころか、「不快な発言」や「いやがらせ」にしか聞こえないこともあり、すべての女性が「男性からの親しさの表現」として受け止めるとは限りません。同様に、「足が太い」「色気がない」などの発言は、当然に不快な発言になるものと考えた方がよいでしょう。感受性は人それぞれであり、人によって言動の受け止め方に違いがあるのは当然のことです。

 性的な感覚についての男女間の差、そして、相手の気持ちや感じ方を理解しようとしない意識がセクシュアルハラスメントの大きな要因になることを認識しましょう。

b 性に関するダブルスタンダード

 従来から、わが国では、性に関して「男性に寛容」で「女性に厳しい」というダブルスタンダード(二重の基準)がみられます。

 例えば、職場の中で、男性の女性に対する性的な行動を伴うセクシュアルハラスメントが明らかになった場合、周囲の人(特に男性)は、加害者である男性を、「普段は真面目な人なのに」「男だから仕方がない」などと擁護し、一方、被害者である女性には、「嫌ならはっきり断るべきだ(合意していたのではないか)」「そんなことを問題にして恥ずかしくないのか」などと、あたかも女性の側に非があるかのような発言をすることが少なくありません。

 これらの発言は、「女(男)はかくあるべき」「女(男)のくせに」などという偏見や先入観に基づくものであり、「加害者を擁護し、被害者を責める」という、事の本質を全く見誤った対応であるばかりか、被害者が被害を訴え、問題解決を図ろうとする行動を抑制させてしまいます。残念ながら、これまでのセクシュアルハラスメントをめぐる問題では、このような対応が数多く発生しています。このことをしっかりと認識しなければなりません。

c コミュニケーション不足

 男女間の認識のギャップを解消するため、職場における男女間のコミュニケーションの積み重ねが非常に重要なポイントですが、現実には、お互いに相手の立場を尊重することなく、コミュニケーションが十分に図られていない状況がみられます。

 例えば、男性が、女性と会話をしようとする場合、女性を名字で呼ばずに「○○ちゃん」と「ちゃんづけ」で名前を呼んだり、愛称や「彼女」「女の子」などと呼ぶこと、逆に年輩の女性を「おばさん」と呼ぶこと、あるいは、女性の容姿や年齢、恋愛や結婚に関する話題を取り上げることが多くみられます。また、男性が女性とコミュニケーションを図る手段として、酒席に誘うことも見られます。しかし、そのような男性の言動に疑問を持つ女性は少なくありません。

 男性が女性を愛称で呼ぶような場合、発言される言葉に対する感じ方が女性によって異なる場合がありますが、常に相手の立場を尊重し、十分なコミュニケーションに努めていれば、相手が何を不快と感じるかがわかり、そのような言動はなくなっていくことでしょう。

(4) 企業における女性の雇用管理方針のあり方~男性優位・男性中心の雇用管理 

 職場におけるセクシュアルハラスメントの背景を捉えるには、企業全体の雇用管理の問題を改めて検討することも必要です。

 最近でこそ、男女共同参画社会実現の取り組みが始まっていますが、これまで、わが国の企業においては、女性を男性の働く上での対等なパートナー、貴重な戦力として位置付けることなく、男性中心の雇用管理が行われてきました。企業の基幹的な部分には男性を配置し、重要な決定を男性が独占する一方、女性については、定型的・補助的な業務を中心にして、重要な決定には参画する機会を与えないという雇用管理が多くの企業で行われてきました。

 このような雇用管理のあり方が、女性の能力発揮の機会を奪うとともに、男性の女性に対する優越意識を生じさせ、「女性は仕事ができない」「女はでしゃばるな」「女のくせに」などという職場の意識や職場環境につながり、セクシュアルハラスメントを生み出す温床となってきたものと考えられます。

 個々の職場においては、企業全体の方針や対応が、そこで働く人々の意識や行動を強く拘束することには間違いがありません。今後、企業においては、男性を中心とした雇用管理を見直し、働く上で女性を男性の対等なパートナーとして位置付け、男女個々人の能力や適性に応じた適正な雇用管理が求められます。

セクシュアルハラスメントは、「個人的な問題」や「特別な人によって引き起こされる特殊な問題」でないことを理解する!* 

 これまでは、セクシュアルハラスメントは個人間の問題であり、「魅力的な女性にのみ起こる問題」、「特殊な性癖を持つ男性の個人的な行為で一般化はできない」などと言われてきました。しかし、現実に起こった職場でのセクシュアルハラスメントをみると、固定的な女性観、性的役割分担意識やダブルスタンダードの考え方が当然視されている職場の中で、ごく普通の男性が、地位や職務権限を利用して起こしています。

 セクシュアルハラスメントが起こる背景・要因に固定的な女性観、性的役割分担意識、性に関するダブルスタンダード、男性中心の雇用管理等の考え方があり、それらに職務上の地位や権限が関わって起こっている以上、「個人的な問題」や「特別な人による特殊な問題」ではありません。

 セクシュアルハラスメントは、誰もがその加害者や被害者になる可能性があり、加害者が特に意識していなくても起こり得るものなのです。

 

2.職場のセクシュアルハラスメント防止のために

 職場のセクシュアルハラスメントを防止するため、それが起こる背景・要因を正しく理解し、対応する必要があります。具体には、女性を男性の働く上での対等なパートナーとして位置づけるとともに、固定的な女性観、性別役割分担意識を解消していくことが大切です。また、男女が対等のパートナーとして働き続けることができるよう、一人一人の努力が求められます。

(1) 固定的な女性観、性的役割分担意識の解消

 わが国では固定的な女性観、性的役割分担意識が根強く残っており、これが職場で女性を男性の働く上での対等なパートナーとして位置づけることを妨げ、女性に対し、業務とは関係のない「女としての役割」を求める原因になっていると考えられます。

 また、これらは「職場への性的関心の持込み」「男女間にある性に対する認識ギャップ」「男性優位・男性中心の雇用管理」の背景ともなっており、意識的に対応していなければ、当然のように「職場の常識」となってしまうものです。

 職場において、固定的な女性観、性的役割分担意識をなくし、男女が対等な立場でお互いを尊重し、その能力と経験等に基づき働くことができる職場環境を整備することがセクシュアルハラスメントを起こさない環境づくりです。

(2) 男女間にある性に対する認識のギャップについての理解と認識

 セクシュアルハラスメントの問題では、加害者の男性と被害者の女性との間に当該言動に対する認識のギャップが往々にしてあり、男性は、「ジョーク」「親しみの表れ」「そんなつもりはなかった」、「嫌なら断ればよかったのに」という場合が多いのに対し、女性は、「不快である」「恐怖を感じた」「とても断れるような状況ではなかった」「相手が地位を利用した」という場合が多くみられます。

 これは、言動を受けた女性が大げさに騒いでいるというものではありません。男性が親しみのつもりで言ったとしても、女性は、不快、いやがらせと感じるなど、男女間に性に対する認識のギャップが背景にあることを理解する必要があります。また、性に関し、「男性には寛容」で「女性には厳しい」というダブルスタンダードの考え方が、女性に「必要以上のモラルを要求する」一方、男性には「必要なモラルをも要求しない」という、男女に異なった基準が適用されている状況がこのような認識のギャップを生じさせる背景になっていると考えられます。

 このような男女間にある性に対する認識のギャップを理解し、その認識を深めることがセクシュアルハラスメントの防止につながります。

 (3) 労働問題であることへの十分な理解と認識

 職場のセクシュアルハラスメントは、企業の雇用管理のあり方や職務上の地位や権限が関わって起こっており、また、職場環境の悪化ととともに、被害者の配置転換や賃金上の不利益、場合によっては解雇や退職といった不利益を生じさせるなど、労働問題として捉える必要があります。

 セクシュアルハラスメントの被害者は、精神的なダメージ(不利益)に加え、解雇・退職に至るケースが多いなど、二重の不利益を被っており、その意味で非常に深刻な労働問題であるといえます。

 職場のセクシュアルハラスメントが労働問題であることを十分に理解・認識し、事業主等による雇用管理上の対応を進めることが防止のポイントです。

(4) 人の嫌がることをしない・言わない風通しの良い職場環境づくり

 私たちは、職場の中で上司や同僚と協力しながら働いており、誰もが快適に働き、生産性を上げるためにも良好な人間関係が必要です。このため「人の嫌がることをしない、言わない」という、人として当然のマナー、ルールを守ることが基本となりますが、実はこれがセクシュアルハラスメントをなくす上でも基本です。

 風通しの悪い職場では、人間関係が希薄で思いやりにかけたり、思っていることが自由に言えないため、知らず知らずに他者を傷つける発言をしてしまったり、不快と感じる言動に異を唱えられないことが多いものです。特に、女性を補助的な役割として扱い、女性の発言を重視しない職場では、性的な言動を女性が不快に思っても口に出して言うことは困難であることが多いものと思われます。

 誰もが自由に意見を述べ、気軽に相談し合えるような風通しの良い職場環境づくりがセクシュアルハラスメントの防止につながります。

(5) 女性軽視・女性差別を許さない職場環境づくり 

  セクシュアルハラスメントは、

・ 女性を軽視する言動(「女に仕事はまかせられない」、「女のくせに口答えするとは生意気だ」など)

・ 結婚・妊娠・出産・生理などを嫌悪、揶揄する言動(「結婚したのになぜ退職しない」「子持ちは仕事をするものではない」など)

・ 女性としての役割を求める言動(お茶くみ、雑用の強要、宴会でのお酌・デュエットの強要など)

などが日常的に存在する職場において起こりがちだと言われています。

 このような「お茶くみは女性の仕事」とか「女には仕事を任せられない」という言動は、ジェンダーハラスメントと理解されているものですが、セクシュアルハラスメントをなくすため、ジェンダーハラスメントについての理解も深める必要があります。女性軽視・女性差別のない職場環境づくりが求められています。

(6) プライバシーに関する過度な干渉を行わないこと

 わが国では、職場においてプライベートな事柄が話題にされがちです。

 しかし、プライベートな事柄に関する受容範囲には個人差があり、また当人同士の人間関係にも影響を与えます。職場は業務を遂行する場所という当然のことを再確認し、プライバシーに関する過度の干渉を行わないことが、セクシュアルハラスメントを防止することとなります。

 

 

 

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