三重の法務労務コンサルタント

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自動車事故による通勤災害と労災保険について

 通勤の途中で自動車事故に逢い負傷した場合には、治療費などを加害者の自動車保険に請求する方法と、労災保険に請求する方法とがあります。

 一般に、自動車事故に逢った場合には加害者の自動車保険自賠責と任意保険)で全額補償してくれるから、労災扱いにしなくてもよいといわれることが多いようです。

 監督署は、労災保険よりも自賠責を使うように勧めることがあるようですし、病院も診療報酬が高くなるので、労災保険よりも自賠責を使うように勧めることがあるようです。

 確かに、小さな事故でケガの程度も軽傷であれば、通常は自賠責保険で損害額を全額補償してもらえるので問題はないのですが、大きな事故でケガの程度も重傷である場合や、被害者の過失割合が高いときなどは、労災保険を使用した方が良いと思います。

 通勤災害で労災保険を使用しても、業務災害と違い事業主にはなんら責任はありませんので、メリット制により労災保険料が上がることはありませんし、労災保険が支給されない最初の休業3日間について会社が休業補償をする義務もありません。

 

 例えば、給与30万円の人が通勤途上で歩行中自動車事故に逢い、過失割合は加害者が80%被害者が20%と認定されたが、ケガの程度が重く、入院治療などをして5ヶ月間会社を休んだとした場合の例で、労災を使用する場合と使用しない場合の補償額を比較すれば、次のようになります。

                         (単位:万円)

 

労災を使用しない場合

労災を使用する場合

損害額

過失相殺

補償額

損害額

過失相殺

労災支給

補償額

治療費

300

60

-60

180

36

36

 0

休業損害

150

30

120

150

30

18

138

慰謝料

100

20

80

100

20

 0

80

特別支給金

 

 

 

 

 

30

30

合 計

 

 

140

 

 

 

248

 

* 自賠責保険は被害者に重過失(70%以上の過失)がなければ過失相殺はありませんが、補償の限度額が治療費・休業補償・慰謝料等の合計で120万円までとなっており、限度額を超えたので同時に任意保険を使うと、自賠責も被害者の過失割合に応じて補償額が減額されてしまいます。

  労災保険には過失相殺はありません。

 

1)労災保険を使ったときの治療費と、自賠責保険を使ったときの治療費は同額ではありません。保険診療のうち、健康保険の診療単価は1点10円、労災保険の診療単価は1点12円です。自賠責保険や任意保険を使った診療は自由診療扱いですから、診療単価は医療機関が自由に決定できますので、1点20円などとなり、医療機関としては自由診療の方が儲かる仕組みになっています。

  この例では、労災保険を使用しない場合、保険会社が病院に300万円を支払いますが、過失相殺分の60万円は、被害者が保険会社に返金しなければならなくなります。

  (後日、保険会社より受け取る補償額の総額から相殺されます。)

2)休業損害額は、30万円×5ヶ月=150万円となります。

  労災保険の休業補償額は平均賃金の60%(150万円×60%=90万円)ですが、そのうち、加害者過失分の80%(90万円×80%=78万円)は保険会社に請求しますので、被害者への支払額は18万円(90万円-78万円)となります。

3)労災保険の休業に対する給付は、休業補償給付(平均賃金の6割)と休業特別支給金(平均賃金の2割)の2つの給付で構成されています。

休業した日について、自賠責保険から休業損害額の全額を受けた場合や、会社から給与の支給を受けた場合には、労災保険から休業補償給付を受けることができませんが、監督署に請求すれば、休業特別支給金を受け取ることができます。つまり、120%の休業補償を受けられることになります。

  

 この例では、被害者が労災保険を使用せずに損害額を自動車保険だけに請求した場合、合計で140万円の補償を受けることになります。被害者が労災保険を使用して、損害額を自動車保険に請求した場合、合計で248万円の補償を受けることになります。

 

 

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