三重の法務労務コンサルタント

仕事(人事労務、海外人事、税務、法務など)で学んだことや、趣味(歴史や旅行など)で感じたことなどを記載します

採用内定の取消について

以前、友人から聞いた話ですが、大学4年生の息子さんがいて、今年の就職活動は氷河期で苦労したが何とか内定先も決まり、丁寧に書面で会社から親に対して挨拶状までいただいた。

ところが、つい最近、体調が悪いので医者で診断を受けたところ、命に別状はないが現在の医学では治せなくて対症療法しかできない難病にかかっていることが分かった。

このことを内定先に報告すべきかどうかで迷っており、医者に相談したら、診断書に業務に支障はないということは書いてあげるといわれたが、それ以上の相談には乗ってもらえない。何人かの友人にも相談したが、そんなことは分かるまで黙っておけばいいといってくれるが、他人事で、さほど親身になっては考えてもらえない。

自分としては、丁寧に親にまで挨拶状をもらった会社なのに、隠しておいてもいいものなのかどうかと思って悩んでいるということでした。

この話を聞いて、法律的には簡単な問題だが、現実的にはなかなか難しい問題だと思いました。

今の大学生の就職活動は3年生の秋ごろから始まって、4年生の春ごろから内定先が決まるようです。

日経連が採用の内定日を10月1日以降とするように企業を指導しているので、正式な「内定」は10月1日以降とし、それ以前は「内々定」という言い方もありますが、法律的にはほとんど違いはありません。

現実には会社から内定の通知をもらい、その後、入社同意書又は誓約書を提出するので、この時点で正式な内定が決まった(労働契約を締結した)ということになると思います。

この内定とは、法律的に言えば、解約権留保付始期付労働契約(採用取消し事由に基づく解約権を留保し、入社予定日を始期とする労働契約)だとされています。

この内定を取消すことは労働契約の解約にあたり、解雇と同様に客観的に合理的な理由がなければなりません。

採用内定を取消すことができる事由に該当するものとしては、単位不足で卒業できなかったとか、病気やけがで仕事ができなくなったことなどがありますが、たとえ難病にかかったとしても、仕事に支障がないのであれば、会社は内定を取消すことはできません。

労働安全衛生法により、会社は労働者を雇い入れる際に健康診断をしなければならないとされていますが、目的は採否決定のためではなく従業員の健康管理のためですから、健康診断の結果で病気が見つかっても即内定を取消すということは許されず、内定を取消すには業務に差し支える病気であるという医者の診断が必要になります。

しかし、病気を報告した場合、実際にコンプライアンスを重視するいい会社で内定を取消さないし健康面で配慮をしてくれたらありがたいのですが、現実には病気を理由に内定を取消せないということを知らない会社もありますし、早く報告をすれば、病気では取消せないことを知っていても他の理由をつけて内定を取消そうとする会社もあるかも分かりませんので、他の理由はつけられないように会社への報告はできたら入社の1~2週間前にして、あとで会社から報告しなかったともいわれないようにし、入社後も解雇されないようにする方がいいのではないかというようなアドバイスをしました。

ただし、実際に大切なのは本人の今後の健康面の事で、本当に治療をしながら仕事ができるのか、無理をして病気が進むようなことはないのか、もし会社でいじめられたりした場合に精神的に耐えられるのかなど、いろいろと難しい問題があるような気がしました。

 

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