三重の法務労務コンサルタント

仕事(人事労務、海外人事、税務、法務など)で学んだことや、趣味(歴史や旅行など)で感じたことなどを記載します

成果主義人事制度について

最近のマスコミの報道などを見ていて、多くの人が日本の成果主義人事制度を誤解しているのではないかということを感じています。

今の日本の人事制度は年功主義から成果主義に転換しているというような前提で、成果主義と年功主義のどちらを採用するべきかというような議論をされていますが、まず、その前提が間違っているのではないかと思います。

日本の人事制度を歴史的に見れば、戦後から1960年ごろまでは生活主義の人事制度(生活の安定を図るのが主目的)で賃金は生活給体系(生計費の高まりに応じて賃金も上がっていく)であったといわれています。1960年ごろからは、主に一部の大企業では、年齢別一本の賃金体系を能力に応じた複線型の賃金体系へ変更させようとしたが、能力を評価する基準ができていなかったので、年功(学歴・性別・勤続)を能力の代理指標として利用しました。この年功主義(学歴も性別も勤続も確率的にはある程度能力を表していました)も能力主義の一部ですが、能力基準を確実にとらえないで個人が努力しても変えられない年功を基準にしたので差別主義人事制度であったといえます。一部の大企業は、毎年新規卒業者を採用し、学歴・性別に応じて教育・能力開発を行い、能力の伸びに応じて職位や給与が上がっていく(当然、同一の学歴や勤続などに応じて競争や評価もある)というこの年功主義の人事制度を採用しましたが、逆に体力のない大多数の中小企業では、多少は年功的に給与は上がるものの大企業ほどではなく、新規卒業者の採用や自社での教育・能力開発などができないため、年功主義を否定して成果主義の人事制度を求めようとしました。多数の中小企業や離職率の高い企業は、学歴不問、成果重視をアピールしています。

1975年ごろからは、日本の人事制度(主に大企業ですが)は年功主義から能力(職務遂行能力)主義へと転換をしてきました。この能力主義人事制度は、学歴・性別・勤続などにこだわらずに、個人ごとに能力を把握し、その能力に応じて社員を処遇していこうというものであり、能力開発主義という色彩を強くもつものでした。1990年代以降は、能力主義に替えて成果主義人事制度を取り入れる企業が増えてきました。

したがって、今の日本の人事制度では、「成果主義」と対立する概念は「年功主義」ではなく「能力主義」であって、両者は一部で混同されていますが、全然違うものです。「成果を出す=能力がある」という考えから成果主義能力主義が混同されることがありますが、能力主義とは結果に結びつかなかった能力をも評価するものであり、概念上は全く異なるものです。「成果主義」とは、個人の仕事の成果を処遇の基準とするものであり、一定の職務をこなすことができる能力(職務遂行能力)を基準とする「能力主義」と対比されるものです。成果主義人事制度を採用しても能力主義人事制度を採用しても、運用の面において評価の基準を明確にできず、年功で評価するようになれば、年功主義の人事制度となってしまいます。

能力主義は人間基準であり、成果主義は仕事基準であるともいわれています。能力主義の場合は、能力は教育・技能伝承・職歴開発などを繰り返すことによって毎年高まっていくので当然に定昇があります。一方、成果主義の場合は、仕事や成果は毎年高まるということはないので定昇はありません。能力主義の人事は、仕事と賃金を結び付けていないから、組織の柔軟性(異動が容易)、社内における人材の育成や雇用の安定性といった面においてメリットをもっていますが賃金を下げることができないという硬直性の故に人件費コストの面においてデメリットをもっています。成果主義の人事は、仕事と賃金を結び付けているから、異動・配転・職種転換などが難しく、社員教育や雇用の安定性において劣っていますが、前年に対し成果が落ちれば賃金も落とすことができるということから、人件費の柔軟性において優れたメリットを持っています。

つまり、能力主義がよいか、成果主義がよいかは一概にいうことはできず、どこに視点をおくかによって異なってくるもののようです。

若年者層や一般職層などには能力主義を適用、中高年者層や管理職・専門職層には成果主義を適用するなど、能力主義成果主義との調和が大切だという意見もあるようです。

「以前の日経新聞に、大阪市職員で高卒以下に限定していた技能職に大卒の人が採用されていたので、本来は学歴詐称で懲戒解雇処分とすべきであるが1ヶ月の定職処分にしたとの記事が出ていました。記事の趣旨は、市民オンブズマンなどが主張している処分が軽すぎるということのようですが、一定の技能職には高卒以下しか採用しない(裏返せば、大卒には入社時から高卒とは差をつける採用をする)という公務員の古い学歴差別主義の人事制度は、性差別や人種差別と同じで人間としての基本的人権や平等を無視しており、憲法違反ではないのかというような発想は全然うかばないのですかね。」

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 PVアクセスランキング にほんブログ村

プライバシーポリシー お問い合わせ