三重の法務労務コンサルタント

仕事(人事労務、海外人事、税務、法務など)で学んだことや、趣味(歴史や旅行など)で感じたことなどを記載します

契約書作成のポイント

1.契約書作成の目的

 一般的に、契約書には取引当事者間における合意事項を書面化するという目的が存在します。それは、取引条件の確認のためであると同時に、将来の紛争予防という目的も存在し、さらには紛争が発生した場合の紛争解決の基準ともなるものです。

 そして、このような合意内容が明確になっていれば、取引の過程で疑義や紛争が生じる可能性も少なくなり、もし疑義や紛争が発生した場合でも契約書に記載されている内容に従い、より早期に解決をすることができるというメリットがあります。

2.契約書の形式について

 契約は、原則として私的自治の原則により当事者の意思が合致すれば成立するもので、方式は自由ですが、後々になって契約の存在や内容について争いになった場合には、証拠として機能するものですから、しっかりした構成であることが大切です。

 通常、契約書に記載する必要のある事項としては、①表題、②前文、③契約当事者の表示、④契約の目的、⑤契約の内容、⑥作成年月日、⑦契約当事者の署名(または記名)捺印、⑧物件目録などがあります。当事者が取得し負担する権利義務の内容、後で争いになって困るような事項については、明確に記載しておく必要があります。

3.契約の当事者について

 契約当事者は、法律上権利能力を有している者でなければなりません。自然人と法人(会社)は権利能力を有していますが、単なるサークルなどの人の集まりは権利能力を有していません。

(1)未成年者を相手方当事者とする場合

    未成年者であっても権利能力を有してはいますが、原則としてその法定代理人の同意が必要であり、これがない場合は、未成年者は後から契約を取り消すことができます。

(2)会社を相手方当事者とする場合

   会社の場合、会社の代表者(株式会社なら代表取締役)の行為が会社の行為と評価されます。相手方の担当者を当事者として契約する場合には、その代理権(職務権限)の範囲に注意が必要です。代理権の範囲を超える内容の契約を締結しても、その契約の効果は相手方には帰属しないからです。

4.契約書の書き方について

(1)表題

   「契約書」「念書」「覚書」「協定書」「確認書」等、どんな表題でも内容的に当事者の合意が読み取れれば、契約書としての法的効果は同じです。表題を過度に重視して「この文書は契約書ではなく覚書なので内容を厳格に吟味する必要はない」と考える人もいるようですが、これは間違いです。いずれの表題であっても、合意内容に従った法的効果が当事者に帰属することになります。一般的に、「念書」は一方的な義務負担を規定し、「覚書」は基本契約書に付随する細目的事項を規定し、「協定書」は当事者間で定まったことを文書化しておくときに用いられ、「確認書」は事実関係や法律関係の当事者間での確認に用いられています。契約の効力には一応無関係ですが、「売買契約書」「賃貸借契約書」等、一見して契約の種類がわかる表題を付けることが望ましいといえます。

(2)前文

    前文には、通常、契約当事者と契約の簡単な内容を記載しますが、契約の目的や契約締結に至る事情・背景などを記載しておくことが望ましいといえます。これらは、個々の条項の契約内容の解釈に疑義を生じたとき、解釈の指針となることがあります。

(3)本文

   契約の実務的要素を落とさず、内容を整理して、順序よく簡潔に記載します。例えば、物の売買契約なら、目的物の特定、納付時期、納付方法、納付場所、金額、支払時期、支払方法、支払場所の記載が最低限必要です。その他にも、納品前に物品が滅失した場合の処理、違約金、遅延利息、管轄裁判所等も記載することが望ましいといえます。継続的な取引であれば期限の利益の喪失条項や即時解除条項も記載します。

   契約内容は、契約自由の原則により、原則として当事者の自由意志により自由に定めることができるのですが、公序良俗強行規定・取締規定・消費者保護規定等による制限に抵触すれば無効とされる場合もあります。

(4)末文

   作成した契約書の通数やその所持者を記載します。契約書の最後の条文の真下に記載するので、後で条文を無断で付け加えたりされるのを防ぐ意味もあります。

(5)作成年月日

   契約日を特定します。法の適用や解釈、締結権限や能力の有無等も、この日が一応の基準となります。

(6)当事者の住所・氏名・押印

   当事者が個人の場合は、住所・氏名・押印、会社の場合は、会社住所・会社名・代表者の肩書・代表者名・代表者印の押印をします。押印は個人なら市区町村役場に届け出た「実印」会社なら法務局に届け出た「代表者印」が望ましいといえます。認印でも契約は成立しますが、後日相手方が押印したことを否定して契約の成立を争ってきた場合に立証が難しくなります。

   ※ 契印 

    契印とは契約書面が2枚以上にまたがる場合に、その各葉が一体のものであることを示すために押印するものです。複数枚をホッチギスで止め、各葉のつなぎ目にまたがるように押印する方法と、複数枚をホッチギスで止めた後、背を別紙でつつんでのりづけし、のりづけの境目に押印する方法とがあります。

(7)物件目録

   契約の対象物が何であるかは重要です。不動産の売買や賃貸借などでは、物件の表示を記載して対象物件を特定します。

(8)収入印紙の貼付

   印紙税法の定めにより必要な場合には、契約書に収入印紙を貼付し、契約書に使用した印鑑で消印をします。ただ、印紙の貼付の有無と契約の効力とは関係がありません。

5.契約書によく用いられる法律用語等の意味

(1)危険負担

   双務契約(双方が相互に対価関係にある債務を負担する契約)において、債務者の責めによらない事由で後発的に履行不能が生じた場合に、他方の債務が消滅するかどうかという問題のことです。特定物の売買、例えば、家屋の売買契約でまだ引渡しが終わっていない間に隣の失火で類焼したようなとき、民法の規定では債権者つまり買主が危険を負担し、代金を支払うとされています(債権者主義)。ただし、この規定は任意規定ですから、当事者の契約で修正することができます。実務上は、特定物の売買についても契約書で債権者主義を排除しています(買主は代金を支払わない)。

(2)不可抗力による損害

   通常必要とされる注意や予防によっても避けることができない外部的な事故による損害のことです。不可抗力があると、債務不履行責任や不法行為責任を免れると解されていますが、実務上は、責任ないし不利益を免除される事由として契約書の中で規定します。

(3)検査(検収)・引渡しと所有権留保

   目的物引渡しの際、受領者は目的物に瑕疵や数量の不足がないか検査した上で受領します。普通は、物件の引渡しと同時に所有権が移転されるのですが、所有権留保(代金の決済が終わるまで所有権を移転しない)を約定することもあります。

(4)瑕疵担保責任

   売買の目的物に隠れた瑕疵があったときに、売主が負担しなければならない責任(損害賠償や補修、契約解除など)のことです。民法では事実を知ったときから1年以内、商法では納品のときから6ヵ月以内とされていますが、契約によってその要件を加重、軽減することができます。ただし、特別法(住宅品確法など)によって規制されている場合も有ります。

(5)契約違反

   いかなる事由を契約違反とするかは、契約自由の原則から、強行規定に違反する場合を除いて、基本的には当事者の意思にゆだねられています。一般に、契約違反があった場合、違反当事者は期限の利益を失うとともに、相手方当事者に契約の解除権と損害賠償請求権が認められるという構成がとられるため、契約違反は違反当事者に多大な不利益をもたらすことになります。

(6)期限の利益喪失

   期限が到来するまでは債務の履行をしなくてもよいという利益を喪失することです。民法では、債務者が破産宣告を受けたときや、担保を毀損したときには期限の利益を喪失すると定められています。実務上は、法定事由に加えて債務者の信用が失われるような一定の事項が発生した場合には、債務者は期限の利益を失うという条項を定めます。

(7)遅延損害金

   債務の履行が遅れたために生じた損害を賠償するために支払う金銭のことです。法定利率は民事5%、商事6%ですが、通常は、相手方の債務の履行を確保するために高めに約定しています。

(8)契約解除

   解除とは、契約が有効に締結された後に、当事者の一方の意思表示により契約関係を遡及的に消滅させることをいいます。解除権には、法律によって解除権が与えられる法定解除権と、当事者が合意により定めた約定解除権とがあります。

   約定解除権の発生事由としては、法定解除権発生事由となる一般的な債務不履行のほかに、契約の継続に支障をきたす事由を個別に検討し、列挙していくこととなります。契約が解除されると原則として遡及効を生じ、当事者は原状回復義務を負うとともに、相手方に債務不履行があった場合には損害賠償の請求をすることができます。

(9)有効期間

   賃貸借契約や継続的な取引契約では契約書で有効期間を定める必要があります。

継続的契約で期間の定めがない場合には、法律上、一方的な意思表示によって契約を終了させる権利が当事者に与えられており、一定の催告期間が設けられているものの、契約の存続を希望している当事者にとっては予期せぬ解約申し入れにより契約が突如終了してしまうという事態が生じるおそれがあります。

   具体的に契約期間をどのような長さにするかについては、法律がとくに存続期間を定める場合(借地借家法等)を除き、当事者の自由です。また、期間が満了しても当事者が合意すれば同一条件で契約を更新することももちろん可能です。

(10)裁判管轄

   通常の民事訴訟では、原則として被告の本店の住所地を管轄する裁判所に訴訟を申し立てなければなりません。しかし、取引の相手方が遠隔地の場合には、多額のコストもかかり不便なため、契約によって当事者に便利な管轄裁判所を定めておきます。

(11)協議事項

  規定外の事項が発生したときに備え、その場合は協議する旨を入れておきます。

 

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