三重の法務労務コンサルタント

仕事(人事労務、海外人事、税務、法務など)で学んだことや、趣味(歴史や旅行など)で感じたことなどを記載します

相続財産の遺留分について

 被相続人は、遺言などの意思表示により相続財産を自由に処分できますが、残された家族の生活を保障するため、全ての財産を自由に処分できるわけではありません。

 民法では、相続財産のうち一定割合は必ず一定範囲の相続人に留保されるということになっており、被相続人の遺言でもこれを侵害することはできないことになっています。

 このように、相続人が取得することを保障された財産を遺留分といい、遺留分を有する相続人を遺留分権利者といいます。

 この遺留分権利者の範囲は、配偶者と子(代襲相続人を含む)、直系尊属(両親など)となっており、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

 遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合には相続財産の3分の1、それ以外の場合には相続財産の2分の1となります。

 遺留分のある相続人が複数いる場合は、各自の遺留分はこの遺留分法定相続分をかけた割合になります。

 配偶者と子が相続人の場合は、法定相続分は配偶者が2分の1で子が2分の1(子が2人の場合は、各自4分の1)ですから、遺留分は配偶者が4分の1で子が4分の1(子が2人の場合は各自8分の1)となります。配偶者と直系尊属が相続人の場合は、配偶者が3分の2で直系尊属が3分の1ですから、遺留分は配偶者が3分の1で直系尊属が6分の1となります。配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、法定相続分は配偶者が4分の3で兄弟姉妹は4分の1ですが、遺留分は配偶者が2分の1で兄弟姉妹は0となります。配偶者だけが相続人の場合は、配偶者の法定相続分は全額ですから遺留分は2分の1になります。直系尊属だけが相続人の場合は、直系尊属法定相続分は全額ですから遺留分は3分の1になります。

 例えば、被相続人に子がなくて、妻と兄弟が2人いて、相続財産が8千万円あった場合、相続人の法定相続分は妻が6千万円で、兄弟が各自1千万円となります。日頃疎遠な兄弟に財産の一部を渡さず全額を妻に残したい場合、遺言で指定すれば希望どおりになります。

 例えば被相続人に妻と子がいるのに、遺言書で相続財産8千万円の全額を愛人に譲ると指定された場合、妻と子はそれぞれ2千万円の遺留分を取り戻すことができます。

 相続人の遺留分を侵害する遺言も当然に無効となるわけではありません。遺留分権利者が権利を行使するまでは有効な遺言として効力を有します。

 相続人の遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は相続財産を受けた者に対して遺留分の減殺請求(返還請求)をすることができます。

 また、遺留分の請求には時効が定められており、遺留分権利者が相続の開始および減殺すべき遺贈があったことを知ったときから1年以内、または相続開始から10年以内に請求しなければ権利が消滅します。

 

 

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相続税に関する例題と解説

(例題)

・ 相続財産は1億円とします。

・ 法定相続人は妻、長男、次男の3人とします。

・ 相続財産を妻が6,000万円、長男が3,000万円、次男が1,000万円取得したとします。

 妻と長男と次男の相続税額は、それぞれいくらになるでしょうか?

 

(解説)

1)基礎控除額を計算します。

3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円

2)課税相続財産を計算します。

  1億円-4,800万円=5,200万円

3)課税相続財産を仮に法定相続分に分けます。

  妻:     5,200万円×2分の1=2,600万円

  長男、次男: 5,200万円×4分の1=各1,300万円

4)相続税の速算表で税額を計算します。

  妻:     2,600万円×15%-50万円=340万円

  長男、次男: 1,300万円×15%-50万円=各145万円

5)相続税の総額を計算します。

  340万円+145万円+145万円=630万円

6)相続税の総額を各自の相続財産の配分割合を掛けて計算します。

  妻:  630万円×10分の6=378万円

  長男: 630万円×10分の3=189万円

  次男: 630万円×10分の1=63万円

7)各人の相続税額は、次のようになります。

  妻: 0

 相続財産の取得額が相続税配偶者控除枠の1億6千万円か、法定相続分(1億円×2分の1=5000万円)のいずれか多い方を超えなければ、非課税となります。

 今回の例では、取得額が1億6千万円以下となっていますので、非課税となります。

  長男: 189万円の課税

  次男: 63万円の課税

 

相続税の税率(速算表)

 法定相続人の取得金額

税率

控除額

1千万円以下

10%

1千万円超 3千万円以下

15%

50万円

 

 

 

 

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ネガティブオプションについて

 消費者が注文していないのに、突然商品を送りつけてきて代金を請求する商法のことを「ネガティブオプション(送りつけ商法)」といわれています。特定商取引法では、ネガティブオプションについてのルールを定めています。

 

1.送りつけられた商品の代金はどうすべきか

① 契約は成立していない

  契約は、売り手と買い手との間の合意があって、はじめて成立します。

 ネガティブオプションの場合には、消費者からの注文がないのに、一方的に事業者の方から商品を送りつけてきています。この事業者が消費者のところに商品を送りつけるということが、事業者からの消費者に対する「契約の申込み」に該当することになります。消費者が、この申込みに対して、購入するという承諾をすれば、売買契約は成立します。

 しかし、消費者が承諾しなければ契約は成立しません。ただ受け取ったというだけでは承諾したことにはなりません。

 承諾は、相手の事業者に対して、「契約します」と連絡するとか、購入するつもりで代金を支払うなどの方法で通知をする必要があります。

 消費者が商品を受け取っただけでは、事業者に承諾の通知をしていないので、契約は成立していません。

 ② 商品を返送しなければ契約は成立するか

 ネガティブオプションの場合には、「商品を返送しなければ契約は成立するので、代金をお支払いただきます」などという一方的な文書を同封してくるものもあります。こういう場合に、商品を返送しないと事業者がいうように契約は成立するのでしょうか。

 契約は売り手と買い手との合意により成立します。合意がないのに、契約が成立するはずはありません。

 ③ 支払義務はない

  契約が成立していない以上、代金を支払う義務はありません。

 

2.送りつけられた商品はどうすればいいか

 ① 商品の返送義務

 それでは、送りつけてきた商品はどうすればよいのでしょうか。購入して代金を支払えば、その商品は消費者のものになるので、どのように扱おうと消費者の自由です。

 しかし、購入しないのであれば、商品は送りつけてきた事業者の所有物です。他人のものを勝手に廃棄処分したりすると所有権を侵害したことになり、結果的に代金や時価相当額を支払わなければならなくなります。

 それでは、その商品を消費者が事業者に変換する必要があるのでしょうか。他人のものを預かってしまった場合には、所有者が引き取りにくるまでは保管すべき義務があります。しかし、商品を変換すべき義務までは生じません。

 ② 商品の保管期間

 しかし、勝手に事業者から送りつけられてきたものを、事業者が取りにくるまでは保管していなければならないというのは、消費者にとっては負担になります。

 そこで、特定商取引法では、売買契約に基づかないで商品を送付した場合で、消費者が契約の申込みに対して承諾をせず、事業者が商品の引き取りもしないままで、送付があった日から14日間を経過した場合には、事業者は商品の変換を求めることはできないと定めています。

 つまり、商品が届いてから14日を過ぎても事業者が商品を引き取りにこなかった場合には、その商品を処分してもよいということになります。

 ③ 商品の保管期間の短縮

 もし、商品を14日間も保管しておくのは嫌だという場合には、事業者に対して商品を引き取るように要求すれば、引取りの要求をしてから7日を経過しても引き取りにこない場合には、保管する必要はなくなります。

 

3.会社宛てのネガティブオプション

 ① 商行為には適用されない

 特定商取引法は、「商行為となる売買契約の申込みについては適用しない」とされています。会社の行う取引は商行為とされています。会社宛に商品を送りつけてきた場合には、特定商取引法の適用はありません。

 ② 売買代金の支払い義務

 ただし、これは保管期間を14日間に限定するという制度が及ばないという意味に過ぎません。

 商行為の場合にも、商品を送りつける方法で契約の申込みをした場合には、商品を受け取ったり変換しないというだけで、売買契約が成立するわけではありません。売買契約が成立するためには、申込みと承諾の意思が一致し、合意が成立している必要があります。

 契約が成立していなければ代金を支払う義務もないのは当然です。

 ③ 受け取った商品の扱い

 それでは、受け取ってしまった商品はどうすればよいのでしょうか。受け取ってしまった場合には、「送りつけてきた事業者」が引き取りにくるまで商品を保管する義務があるとされています。

 最初から、宅配や郵便で送られてきた荷物などは、依頼したものでない場合には受取り拒否をすることが一番ですが、受け取った後で、依頼したものでないことが判明した場合には、相手の事業者がいつ回収にくるか予想がつかないので、速やかに返送する方が安心です。送りかえす場合には、着払いで返送すればよいでしょう。

 

 

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自動車事故による通勤災害と労災保険について

 通勤の途中で自動車事故に逢い負傷した場合には、治療費などを加害者の自動車保険に請求する方法と、労災保険に請求する方法とがあります。

 一般に、自動車事故に逢った場合には加害者の自動車保険自賠責と任意保険)で全額補償してくれるから、労災扱いにしなくてもよいといわれることが多いようです。

 監督署は、労災保険よりも自賠責を使うように勧めることがあるようですし、病院も診療報酬が高くなるので、労災保険よりも自賠責を使うように勧めることがあるようです。

 確かに、小さな事故でケガの程度も軽傷であれば、通常は自賠責保険で損害額を全額補償してもらえるので問題はないのですが、大きな事故でケガの程度も重傷である場合や、被害者の過失割合が高いときなどは、労災保険を使用した方が良いと思います。

 通勤災害で労災保険を使用しても、業務災害と違い事業主にはなんら責任はありませんので、メリット制により労災保険料が上がることはありませんし、労災保険が支給されない最初の休業3日間について会社が休業補償をする義務もありません。

 

 例えば、給与30万円の人が通勤途上で歩行中自動車事故に逢い、過失割合は加害者が80%被害者が20%と認定されたが、ケガの程度が重く、入院治療などをして5ヶ月間会社を休んだとした場合の例で、労災を使用する場合と使用しない場合の補償額を比較すれば、次のようになります。

                         (単位:万円)

 

労災を使用しない場合

労災を使用する場合

損害額

過失相殺

補償額

損害額

過失相殺

労災支給

補償額

治療費

300

60

-60

180

36

36

 0

休業損害

150

30

120

150

30

18

138

慰謝料

100

20

80

100

20

 0

80

特別支給金

 

 

 

 

 

30

30

合 計

 

 

140

 

 

 

248

 

* 自賠責保険は被害者に重過失(70%以上の過失)がなければ過失相殺はありませんが、補償の限度額が治療費・休業補償・慰謝料等の合計で120万円までとなっており、限度額を超えたので同時に任意保険を使うと、自賠責も被害者の過失割合に応じて補償額が減額されてしまいます。

  労災保険には過失相殺はありません。

 

1)労災保険を使ったときの治療費と、自賠責保険を使ったときの治療費は同額ではありません。保険診療のうち、健康保険の診療単価は1点10円、労災保険の診療単価は1点12円です。自賠責保険や任意保険を使った診療は自由診療扱いですから、診療単価は医療機関が自由に決定できますので、1点20円などとなり、医療機関としては自由診療の方が儲かる仕組みになっています。

  この例では、労災保険を使用しない場合、保険会社が病院に300万円を支払いますが、過失相殺分の60万円は、被害者が保険会社に返金しなければならなくなります。

  (後日、保険会社より受け取る補償額の総額から相殺されます。)

2)休業損害額は、30万円×5ヶ月=150万円となります。

  労災保険の休業補償額は平均賃金の60%(150万円×60%=90万円)ですが、そのうち、加害者過失分の80%(90万円×80%=78万円)は保険会社に請求しますので、被害者への支払額は18万円(90万円-78万円)となります。

3)労災保険の休業に対する給付は、休業補償給付(平均賃金の6割)と休業特別支給金(平均賃金の2割)の2つの給付で構成されています。

休業した日について、自賠責保険から休業損害額の全額を受けた場合や、会社から給与の支給を受けた場合には、労災保険から休業補償給付を受けることができませんが、監督署に請求すれば、休業特別支給金を受け取ることができます。つまり、120%の休業補償を受けられることになります。

  

 この例では、被害者が労災保険を使用せずに損害額を自動車保険だけに請求した場合、合計で140万円の補償を受けることになります。被害者が労災保険を使用して、損害額を自動車保険に請求した場合、合計で248万円の補償を受けることになります。

 

 

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交通事故に関するクイズの解答と解説

「解答」

 1.A   2.B   3.A   4.B   5.A

 

1.交通事故であっても、健康保険を使ってケガの治療を受けることはできます。

  ただし、以下のケースでは健康保険の給付を受けられないことになっています。

 1)業務上の災害

仕事中や通勤途上の事故でケガを負った場合は、「労災保険」を使わなければなりません。

 2)法令違反

  無免許運転や飲酒運転などによって、自らがケガを負った場合は、健康保険からの給付は制限されます。

 健康保険などを使わないで治療を受ける(自由診療といいます)と、医療費は保険を使ったときの2倍程度になりますので、病院によっては「交通事故では保険は使えません」と断言するところがあるようですが、絶対にそんなことはありませんので「そんなことないでしょう!」と言い返してください。

 

2.通勤途上で交通事故にあった場合には、労災保険で治療を受けることになっていますので、健康保険は使えないことになっています。

ただし、労災保険は労働者に対して給付を行うものですから、労働者とは認められない代表取締役監査役などは、通勤途上の交通事故に対して労災保険は適用されませんが、通勤災害なので健康保険も適用されませんので、注意を要します(制度の谷間といわれています)。

 

3.交通手段が会社への届出と相違していても、それは会社での規則違反の問題であり、その為に労災保険が適用できないということはありません。通勤の経路が合理的な経路を大きくはずれていたというような問題がなければ、労災保険は適用できます。

 

4.労災保険を使用すればメリット制により会社の保険料率が上がるというのは、業務災害の場合に限られています。通勤災害で労災保険を使用しても保険料率には何ら影響することはありませんし、会社が不利益を被ることもありません。

 

5.まず、労災で治療を受けた場合、自由診療よりも治療費が安くなります。

  つぎに、被害者に過失があった場合、自動車保険では過失分は補償されませんので、治療費も過失割合に応じて自己負担を強いられますが、労災保険で受診すると被害者の過失分も労災保険が負担するため、被害者の負担はなくなります。

  さらに、休業補償を受ける場合に労災保険では通常の60%の休業補償とは別に、20%の休業特別支給金を受給することができます。この休業特別支給金は通常の休業補償とは違い、自動車保険から100%の休業補償を受けても受給できるものです。

 

 

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交通事故と健康保険等に関するクイズ

1.交通事故にあってケガをしたので、病院に行って健康保険証を提示したところ、会計の窓口で「交通事故では健康保険は使えない」と言われました。

  交通事故では健康保険は使えないのでしょうか?

 A.交通事故でも健康保険は使える。

 B.交通事故では健康保険は使えない。

 

2.通勤途上に交通事故にあってケガをしたので、病院に行って健康保険証を提示したところ、会計の窓口で「通勤途上の交通事故なので健康保険は使えない」と言われました。

  通勤途上での交通事故では、健康保険は使えないのでしょうか?

 A.通勤途上での交通事故でも、健康保険は使える。

 B.通勤途上での交通事故なので、健康保険は使えない。

 

3.会社から通勤用に定期券の費用をもらっていましたが、バイクで通勤途上に交通事故にあってケガをしたので、会社に労災保険の適用を申請したところ、担当者から「会社は定期券の費用を負担しており、バイクでの通勤は認めていないので労災保険の適用はできない」と言われました。

このような場合、労災保険は適用できないのでしょうか?

 A.労災保険を適用できる。

 B.労災保険は適用できない。

 

4.通勤途上の歩行中に、交差点で車にはねられて負傷しました。相手方から労災保険で受診してもらえないかと要請されたので、会社にその旨を伝えたところ、「労災保険を使用すると会社の労災保険の保険料率が上がるので、自動車保険で対応するように」と言われました。

通勤災害に労災保険を使用すると、会社の労災保険の保険料率が上がるのでしょうか?

 A.保険料率が上がる。

 B.保険料率には影響しない。

 

5.仕事中、交通事故にあって入院し治療を受けていますが、相手方の保険会社の担当者から労災保険で治療を受けてほしいと要請されました。

  労災保険を使った場合、被害者である自分にもメリットがありますか?

 A.被害者にもメリットがある。

 B.加害者にメリットはあるが、被害者にはメリットがない。

   

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被害者を責めた世間

 日本経済新聞に、イラク人質事件と自己責任論という見出しで、次のような記事が載っていました。

 2004年4月8日、イラク武装グループがボランティアやジャーナリストら日本の民間人の身柄を拘束し、イランに派遣されていた自衛隊の撤退を要求するという事件が発生した。人質は無事解放されたが、政府の退避勧告に従わずに現地入りしたことに対して、「身勝手」「自己責任」という非難が集中した。その背景に「世間」という暗黙のルールが垣間見える。

 拘束されたのは男性2人と女性1人の3人で、犯行グループは「3日以内にイラクから自衛隊を撤退させなければ3人を焼き殺す」と要求し、ビデオテープで人質の映像も放映された。

 同日緊急会見した福田官房長官は「自衛隊撤退を考える理由はない」と言明。翌9日、小泉首相も「救出に全力をあげる」としながらも「テロリストの卑劣な脅しに乗らない」と強調し、自衛隊撤退の選択肢はないことを明らかにした。

 一方、人質の家族らは、川口外相に自衛隊撤退も視野に入れた対応と早期救出を訴えた。記者会見に応じた家族からは「自衛隊には撤退していただきたい」という発言があった。家族がいら立ち、憔悴した結果の「撤退要求」だったが、この記者会見を機に被害者と家族へのバッシングが始まる。

 被害者のホームページへの嫌がらせの書き込み、家族宅への電話、ファックス、手紙、ネット掲示板での中傷が相次いだ。非難の主な理由は「被害者は政府の退避勧告を無視して危険な現地へ入ったのに家族は謝罪もせずに政府批判をした」というものだった。

 メディアでも「自己責任の自覚を欠いた無謀、無責任な行動が政府や関係機関に無用の負担をかけた」などの批判や、必要以上に被害者個人のプライバシーを暴き立てる報道もあった。

 同月12日、竹内外務事務次官が「自己責任の原則を自覚して、自らの安全を改めて考えてもらいたい」と発言。「自己責任」の論議が事件解決の見通し以上にヒートアップしていく。

 人質は4月15日に解放されたが、福田官房長官は「どれだけの人に迷惑がかかるかということを考えてもらいたい」と苦言を呈した。小泉首相は「やはり自覚というものをもっていただきたい」と批判した。政府・与党には自己責任を問う声が噴出した。

 過去、海外で日本人誘拐事件は数多く起きているが、解放された被害者がこれほど批判された例はなかった。自己責任論は政府や一部のメディアだけではなく、多数の国民も支持した。

 一方、「彼らの活動内容には触れずに、終始『自己責任』のみで責められていたのはひどすぎる」「一市民を政府・官僚・マスコミが批判し、それに乗っかる匿名の人びと。嫌な世の中になったものです」など、被害者擁護の意見も少なくなかった。

 醍醐東大名誉教授は「あれほど多くの国民が自己責任論に同調し、『草の根バッシング』の様相を呈したのは、被害者と家族が『世間』のルールに反したとみなされたから。彼らは『世間』に迷惑をかけた上、おわびもしなかったと思われ、国民の怒りを買った」と分析する。

 おわびに関して被害者家族は最初の記者会見冒頭で政府や「世間」への謝罪を述べていた。しかし、ニュース映像ではカットされ、自衛隊撤退を要望する発言が強調されてしまった。

 醍醐名誉教授は、日本には国家と個人との間、あらゆる組織、集団内に「世間」があり、場合によっては国家や法律よりも「世間」が個人を裁くことがあるという。日本と同様にイラクで民間人が誘拐された他国では、無事生還した人々は国民の歓喜の中で帰国しており、非難された例はない。

 自らの行動基準を内に持たず、漠然と「世間」に基準を求める特性は、日本人全体になると「『外国人はどうしているのか』と、すぐに外国の事例に頼ろうとする」ことになる。

 米国のパウエル国務長官は日本のテレビのインタビューで「危険を知りながら良い目的のためにイラクに入る市民がいることを日本人は誇りに思うべきだ」と人質になった人々を擁護した。フランスのルモンド紙もイラク入りした人々の人道的活動を高く評価する記事を掲載した。

 自己責任論の高まりに対し、「外国ではこう見ていますよ」というのは、日本人を冷静にさせる有効な手段だった。自己責任論は、その是非を論じる双方、そして日本人全体が「世間」という不文律の中で生きていることをあぶり出した。

 

 日本人の人質は一時生命を危ぶまれる状態に陥ったようですが、幸いに、イラク人の多くや武装グループなどにも、人質になった彼らのイラク入りの目的を理解されたようで、彼らは無事解放されました。

 しかし、解放後帰国した彼らに待っていたのは、「自己責任論」による大バッシングでした。解放された3人は4月18日、ドバイから関西空港経由で羽田に到着します。

 空港で出迎えたのは100人を超える報道陣とやじ馬で、本来なら「無事に帰れてよかったね」と声をかけてあげるのが当然だと思うのですが、「自業自得」「税金泥棒」などと書かれたプラカードと、非難の声しか聞かれなかったそうです。

 政府やマスコミ、多くの国民が「国の発した退避勧告を無視した者の自業自得」「自己責任を知らぬ無謀な行為」「救出に要した費用を本人に支払わせるべきだ」などの言葉を彼らに浴びせかけたのです。

 しかし、この3人へのバッシングは、本来、小泉首相など当時の政府が負うべきだった責任を被害者本人への自己責任へ転嫁させたことから起こったものだったように思います。

 日本政府の退避勧告はあくまで勧告レベルであって強制力はないし、政府が、海外にいる日本国民を保護し、事件や事故にあった被害者を救出するのは当たり前のことであり、特に、彼らのイラクでの人道支援などの目的や活動内容を知れば、彼らを救出しようとするのは当然に国の責任だっただろうと思います。

 小泉首相や官僚など政府関係者、新聞、テレビなどのマスコミは世論作りに大きな影響力を持っています。イラク人質事件では、「悪いのは人質、正しいのは小泉首相など政府や自衛隊」という世論があっという間につくられています。人質事件後の世論調査では、小泉首相への支持率や自衛隊派遣賛成の意見が増えていました。

イラク人質事件で、本当に責任を取るべき人は誰だったのでしょうか?

 

 世間というのは恐ろしいもののようですね。私たちは個人で何かをしようとするとき、よく世間の目を気にします。世間とは実態のない曖昧なものですが、誰の傍にもいつの間にか存在してしまう空気のようなもので、世間の価値観に同調しない者を場の空気を乱すものとして嫌うようです。自分の価値観をもたず世間の価値観にあわせていると、よく考えれば正しいと思えるようなことでも、間違ったことのように思えてしまうことがあるようです。そのように人の判断を狂わせる力を世間はもっているので、私たちは自分の価値観をもち、世間に惑わされないようにすることが大切なようですね。

 

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